夫が福井の永平寺まで葬儀で行かねばならないということで、駅まで送って家に戻った。久しぶりに一人になったので「手抜きで行くぞー」と開放感に浸ったのも束の間、小テーブルの上に充電中のスマホが置いてある。
「私さっき家を出る時、聞いたよね?スマホ持った?って。これだけは忘れると大変だからって」「うんって答えたよね?」
夫は忘れ物の常習犯なので驚かないけれど、平日の2日間連絡が取れないのはさすがに困る。ここにあるスマホに仕事上の大事な連絡でも来たら、私はどうしたらいいのか・・?あちらに居ても帰りの列車の時間とか連絡とか今のご時世スマホなしでのビジネスやお付き合いの世界はありえないのでは?
こんな思いの真っ最中、なるようにしかならないとあきらめて本を読んでいると・・・八木沢里志さんの『ペンション・ワケアッテ』の第四話ワケアッテ停滞、にスマホ中毒の小説家の話がでてきた。あれ?今このタイミングでこのエピソード?と声に出したいほどぴったりの話だったので思わず一気読みしてしまった。
この本は時間の流れがゆっくりの時でないと寛げないので、一人で過ごすこの夜にはピッタリの本だった。このペンションへ泊まりにくるお客さんのエピソードなのだけれど、ペンションの女主人の楓さんとご主人の小吉さんと接している間になんとなく元気をもらって再生して帰っていく話なのだ。不調の元や、悩みや、色々をワケアッテ軽くして帰っていくという感じで。
この小説家は今スランプで長い間小説が書けないでいる。焦りながらも自分を誤魔化してスマホばかり見ている。景色も何も楽しめずイライラしてアクセス数をひっきりなしにチェックし・・・それを見ていた楓さんが散歩を勧め、小吉さんが美味しいコーヒーをいれる用意をして散歩に出るのだが、スマホが気になってしかたない。
小吉さんは話のやり取りの流れで、気位の高い小説家が「スマホなんていらない〜」と言うので、悪気なく彼のスマホをポーンと遠くに向かってホン投げてしまう。どこへ行ったかわからない状態の中で、イライラしながらも平気をよそおって、二人で素敵な景色を見ながら、色々会話をしたり途中の清水から汲んできた水で、その場で引いた豆でいれたコーヒーを飲みながら過ごすのだけれど、彼は無意識に何度もポケットをさがしておちつかない。
少ししてコーヒーの味やまわりの景色に心が行くようになり何かを取り戻しつつあるのだが・・・。ここを読んでいて、今日スマホのない夫は今頃どうしているだろうか?彼はスマホ中毒ではないけれど、多くのことに活用している人間の一人だと思うし、特に旅先のお寺さんではPCも持っていってないので、多分とても不自由しているに違いないと思うのだ。
しかも夫のスマホには大事そうなラインやメールもいくつか入ってきている。私からあちらにも連絡ができない。これを期に何かを実感して、忘れ物の常習犯や平気で「持った」と答えるいい加減さから足を洗ってくれると良いのだが・・・今夜の帰宅時の反応が楽しみだ。
小説家のスマホは翌早朝、小吉さんがお隣の果樹園の敷地まで行ってさがして見つけて彼の元に無事戻った。画面に少し傷がついたらしいけれど、小説家の彼は気持ちがスッキリしていたので怒ることなく「新しい作品ができたら持ってきます」と帰って行った。こうは行かないほどスマホにのめり込んでいる人もたくさんいると思うけれど、なにより楓さんの本棚に、伏せている彼のペンネームの本があったのを見つけたので勇気をもらったようだ。
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