2022年7月7日木曜日

『サン=テグジュペリの世界』<永遠の子供>の生涯と思想 by 武藤剛史 

ウクライナ情勢の気になる日々に手にした講談社選書メチエ の上記の本を読みながら色々なことを考えた。眼が不自由になってから本を読む速度が遅くなり、400ページ近い本は結構時間がかかった。それでもウクライナの情勢はまだ戦争が続いたままだった。サン=テグジュペリの戦争体験と重なった。

彼の『星の王子さま』は何回読んだだろう?縁あって日本語、英語、フランス語、スペイン語と4カ国の言葉で読んでみた。そしていつも新しい発見をした。

この本を読んで、作者のことを少し余分に知ることができた。書かれている通りだとすると本当に<永遠の子供>だ。母親を母親のまま一生愛し続け、多くの女性関係も各々とのつながりのまま一生愛し続け、最悪の妻コンスエロとも苦労しつつ一生の妻だった。こんなに多くの女性友だちがいて、嫉妬の対象にならないのかと何度も呆れながら思ったが、長く続く彼の愛は母親に対する信頼のようなものが加わったちょっと一味違ったものだったのだろう。

多くの友人にも我が儘で気まぐれですごく迷惑をかけているのだけれど、みんな彼を許し彼を愛するのだ。そして彼のために何かをすることを惜しまない。

自分の思った通りに絶対に決めたら曲げないで突っ走る彼は、もし私のそばにいたら巻き込まれてすごく疲れると思う。もっとも私は冷めているから尽力を尽くさないだろう。

空を飛んでいるのが大好きな彼は、安っぽく言えば趣味と実益を兼ねたもっとも自分に相応しい職業についたと思うのだが、それと並行して物を書く。絵も描く。

嫌なことをしなければならない時は思いっきり愚痴る。でも、その先に自分のしたいことが存在しているときは我慢して粘り強く続ける。好きなことのためにはやるのだ。そして優しい。王子さまと彼が重なってしまうのもきっと彼が優しい人だからだ。

母親にいくら金銭的な迷惑をかけても平気でまたおねだりできるところがすごい。すごい信頼関係?それともやはり子供だから?自分には妻がいるのに、ネリーに何度も助けを求めるのもすごい。色々な種類の人々との絆が彼の周りにあり、一つ一つが全く違う特別な形をしている。だから人々に愛され、あのような作品を描くことができたのだろう。そして、貫いた生き方と最後に空に飛び立ったまま帰らぬ人になったのも、美しすぎる。

私は、『星の王子さま』の人やものとのつながりが、その相手に対してどれくらいの時間を費やしたかでそのつながりの深さが決まる〜という部分が好きでずっと心の中で繰り返して来たのだが、本当にそう思っている。その他大勢の庭園のバラと、小さな庭の片隅で倒れそうになっている一本のバラとの違いだ。世話をすることで、関わることで特別な存在になるのだ。そして費やせば費やすほど大切なものになっていくと思っている。

生きている間にそんな関わりが増えていく。自分の人生が死ぬまで続く。

我が儘いっぱいに思い切り人恋しく愛し続けながら生きた一人の作家の人生を読みながら、私の中に優しい風が吹いた。鈴が鳴った。夜空の無数の星空に向かって微笑みたい。


PS/ サン=テグジュペリは日常的なルールには全く疎く悪気はないのだが言われてもすぐに忘れてしまった。家ではもちろんだが間借りをしている時にも浴槽の蛇口は閉め忘れるし、照明を消し忘れる。部屋の中はごちゃごちゃ・・すぐに散らかりはじめる。飛行機の操縦中ですら何度もドジをしている。命に関わることでもうっかりは治らないのだ。

ふとうちにも同じタイプの人間がいる・・・と思った。やっていることがそっくりなのだ。私の忍耐力は彼の友人たちに劣るのだろう。今朝もご近所から、家の外の止水栓の蛇口から水が溢れていると起こされた。道路までびしょびしょで、清水のように水が溢れていた。やれやれ・・・誰かさんが閉め忘れたらしい。

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