2023年3月8日水曜日

多和田葉子3部作『地球にちりばめられて』『星に仄めかされて』『太陽諸島』

 現在の世界情勢の中に引き込まれながら進んでいくとても不思議な作品だった。

自分が作中の登場人物の一人になり六人の仲間と行動をともにしているような錯覚に陥り、コロナ禍とウクライナの戦争と同時進行しながら旅をしていた。

多和田さんの世界はすごかった。


私は古事記も日本書紀もまともに読んだことがない。だからこの作品を読むには少々教養が足りなかったと思う。絵画や映画などはすぐに目に浮かび、なるほど・・・と思えてスムーズに進んだ。しかしそれとは別に一人の一般の読者として読み進み、それぞれの登場人物の名前や時代背景に込められたスパイスをうまくキャッチできなくても考え、問い、楽しみながら旅ができた。知らないことが出てくると、時々ネットの助けを借りて調べながら進んだ。

最初の2冊と3冊目とでは随分雰囲気が変わった。人の足で移動していた場面が今度は自分たちは動かずとも大きな箱のような乗り物が六人を連れて移動して行ってくれる。そこで見るもの、感じるもの、会話すること、考えること・・・が何かに導いて行ってくれるのだが、それは読み手一人一人異なった何かなのかもしれない。何度も地図を見ながら旅をした。

初めにパンスカ語にびっくりした。多和田さんの言語に関する感覚に驚いた。私も英語、スペイン語、フランス語をかじっているが、言語には大変興味を持っている。友人には更にエスペラント語やロシア語にも精通していた者やドイツ語、イタリア語も堪能だった者もいたが、とても仲良しで会話していても楽しく、心が広く偏見がなくとても気持ちの良い関係だったと思う。彼女たちには国境がないのだろう。

文章は描写が独特で美しく、情景がそのまま絵になり目に浮かんでくる。詩人だけあって、少ない言葉や単語、表現がとてもリズミカルで文字が目の中で絵や音に変わり体の中に入ってくる。とても不思議な作家さんだった。

Hirukoとヨーロッパを旅をしながら、『日本沈没』やウクライナ戦争やパンデミックを思い、国をなくすこと、アイデンティティを失うこと、家族と交流できなくなること、一人ぽっちになること、言葉が違っても知らない人々の中から関係が生まれていくこと、家族を辿っていくと随分昔に何かと繋がっていたりすることなど・・・・色々考えた。結構身近に自分の中で起きていることなのだ。

もう少し読んでみたいと思った。


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