2021年10月12日火曜日

『ブルックリン・フォリーズ』 by ポール・オースター

 柴田元幸さんの訳は面白い。日本語であることに全く違和感を持たずにスイスイと進んでいく。うまいなあと思う。ニューヨークが地元の街みたいだ。

このブログでは、『ムーン・パレス』のことと映画の『スモーク』について書いたことがあるような気がする、『幽霊たち』とか色々読んだが、あとの本については感想を書いている余裕がなかったのだろう。


この作品は主人公ネイサンの年齢が老年に入り、自分に近いせいか諸事情に重なるところが多くあって身近に感じ、ふと最近の自分を思うに「そうか、これもありか・・・」などと何か心地よいものを感じながら読んだ。つまり子育ても終わり、病気を抱え、離婚はしてないがどこか今までの人生に残りの時間をもらったような自由さを感じる頃の話なのだ。

人のことを客観的に見れるようになり、経済的にもちょっと余裕があって、時間もある。自分のことだけを考えていられる時期になり、ある意味やろうと思えば何でもできるのだ。もちろん体力のことは考えずに、のことだが。100%自分が自分でいられる時期に人は何を思うのだろう?

実際の自分の人生は思っていたのとは違って歳をとるごとに厳しさを増した。ちっとも楽をできないではないか・・・しかし、古希を過ぎて何が起きても受け取り方で色々変わることを学んだ。悲劇も喜劇も自分次第だ。

この作品の主人公ネイサンの立ち位置がいい。色々なことからリタイアの年齢で、深刻なことでもちょっと人ごとで、聞き役で・・でも実際結果的にはお節介で人の役に立っている。その自由さとのどかさがたまらない。ちょっとムーン・パレスと重なりながら冒険の旅に出た気分だった。色々巻き込まれても、裏切ったり逃げたりせず、何でも受け入れてごく自然。この余裕はなに?これいいじゃん!というスタンスがキープできているのだ。

甥っ子や娘や友達、とにかく身近なたくさんの人たちとのつながりがブルックリンに溶け込んでいて、そこの一員になってちょっと本屋を訪れたいような気持ちにさせる。映画の『スモーク』で映像を見ているので、それがヒントとなって、余計そんな気持ちになってしまうのかもしれない。

後味がとてもよかったので、残りの人生を生きるヒントに。

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