2021年8月28日土曜日

『貝に続く場所にて』by石沢麻依 〜第165回芥川賞受賞作品

大変久しぶりに芥川賞の受賞作品を読んだ。以前はほとんど発表と同時に読んでいたのだが、最近は文藝春秋の特別号を買ってきても途中で退屈してしまったりして読み進めることができず挫折を繰り返していた。この作品は、珍しく夫が薦めてくれたので つい読んでしまったが、読み応えがあった。

『貝に続く場所にて』、タイトルから意味不明なのだが、スペイン関係の勉強を長年していたせいで、多分巡礼の帆立貝の道標と関係あるのだろうなあ?と思いながら読み進めた。

読んでいるとどうしても漱石の世界に引っ張られる。記憶、罪悪感、隠遁・・・。野宮さんという名前と野々宮が重なるせいなのかもしれないけれど、至る所に漱石の雰囲気を感じるのだ。K や先生がちらちらする。私は日本の文学はあまり読んでないのだが、漱石だけは大変興味深く漢文以外は読んできた。心をえぐってきてとても面白かった。野宮さんが幽霊だと知った時と寺田寅彦が出てきたときは驚いた。幽霊をどのように処理するのだろうか?と最後まで好奇心を引っ張った。

読んでいると、時空間の使い方で、ボルヘス、フリオ・コルタサル、カフカなども感じてくる。仕掛けとか小道具とか言ってしまうとそぐわないかもしれないけれど、謎解きをしたら隠されたヒントがたくさん出てくると思う。別の読み方ができてとても面白いかもしれない。坂元裕二さんのドラマを観ているみたいに小道具がいっぱいで楽しみが倍増するのではないだろうか。

「時間の軸と空間の軸が貝を通して過去と向かい合わせ解き放たれる、そしてその先に導かれる」迷う魂の行き場所が見つかるとよいと思う。

作者の視線が西洋美術史を研究していたせいもあって、絵画的要素がとても増し、読む者の想像力を膨らませるヒントを与えてくれる。そのせいで舞台になっている場所や建物、街並み、着ているものの色彩など頭の中で絵画や映像になって表現されてくる。そのビジュアル化が最後まで引っ張ってくれた。

寺田さんは途中で消えるのだろうな?と思っていたら、スーッと自然な消え方をした。野宮さんはどうするのだろう?と思っていたが、お盆の終わりと同時に行き着く場所へ行ったのだろう。

とても難しい作品だったので、書きたいこと、まだわからないことがたくさんあるので中途半端な感想になってしまったが、取り敢えず一回読んだ記憶を書き留めておこうと思う。

最後に意識的なのだろうが、漢字の使い方が独特で、普通使わない文字や読み方が多用されていたが、どのような意図があったのだろうか?彼女の文体の特徴となるのかわからないが・・先が楽しみだ。


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