2013年2月11日月曜日

『風の影』 ~La sombra del viento






12年間スペイン語の勉強をしてきて、何回この名前を聞いただろうか?




"La sombra del viento"(『風の影』)というタイトルと、サフォン(Carlos Ruiz Zafón)というスペインの作家の名前。



私には新しい作家で、今までに一度も読んだことがなかった。 もっとも2001年の作品だから、私がスペイン語を始めたのが2000年なので、比較的新しい作家ではある。
(日本で翻訳が出たのが、2006年)

初めて聞いた時に、古典かと思っていた。
ドンキホーテみたいに、古くからあるものだと・・・。

たまたま同じクラスのIさんが、スペイン語ではなく英語で読んだのだが、大好きだと薦めてくれたのがきっかけで、直ぐに本を買って読み始めた。全然古典ではなかったが、1945年から物語が始まるから、決して今ではない雰囲気は漂っている。

お湯が沸くまでの間とかちょっと座った時〜とか空いた時間でどんどん読み進み、最後にはテレビも観ずに夢中になって読んでいた。
こういう読み方って、『1Q84』以来のような気がする。

ミステリーや冒険の範疇に入るみたいだが、そう、『ゲド戦記』や『ダビンチコード』などの世界に少しずつ近いか?
けれど、内戦や歴史的、社会的背景による人々の心の在り方も描かれるので、それだけではない何かがたくさん含まれている。

舞台は1945年のバルセロナ。
これで、私は直ぐに物語の中に入って行ってしまった。つまり一人で散々歩いた町なので、地理がすっかり頭に入っていて、何もかも目に浮かんで来るのだ。とくにランブラス通り近辺など何度歩いたことか・・・
だから、すっかりその気になって作中の人物たちと行動をともにし始めた。

父親は古書店を営み、10歳になった息子のダニエルを『忘れられた本の墓場』に連れて行く。ろうそくの炎に照らし出されたこの場所が目に浮かんできて、この舞台設定の素晴らしさで釘付けになり、止まらなくなった。そして、更なる深みへ。

ダニエルはここで本を一冊選んで、その本を一生涯かけて守らなければならない、と父親と約束し、まるで隠してあるように置いてあった場所に手が伸びて、吸い付くように選んだ一冊の本が『風の影』だった。ほとんど知る人のいない一冊の本。

この本と、その本の作者、フリアン・カラックスを巡って、大変な世界に巻き込まれて行くのだが・・・。

誠実な父親のセンペーレさん、つかみ所のないホームレスのフェルミンなど、登場人物の豊かさと、主人公のダニエルの正直な勇敢なのか気が小さいのか判断が難しい楽天家的人間らしさが大きな魅力になっている。

そして、これは作者の表現力のすごさなのだろうが、ダニエルとフリアンを巡って、現在と過去が交叉し、今の彼に起きている事なのかフリアンの世界の事なのか・・???と二つの次元が解け合ってくるのだが、読み手が自然にその混沌とした世界に引き込まれてしまう、その持って行き方のうまさに、脱帽だ。

映像ではなく、文字で、こんなことができるのだ〜〜と人間のイマジネーションをついた作者の力にひたすら感心した次第だ。

マリオ・ベネデッティの "La Tregua" を翻訳した仲間の一部の人々がこの本の翻訳をしていたが、訳していたら又、読んでいるのと違った世界が見えて来るのだろうなあ〜と興味津々だ。

久しぶりに夢中になって、物語の世界に浸った。






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